- コラム
【こころのヒント】自分を責めすぎてしまうときに――自己批判から、自分を思いやる力へ
こんにちは。Arataカウンセリングルームの矢島です。
前回の「こころのヒント」では、怒りとの付き合い方についてお話ししました。怒りは自分の境界線や大切なものが傷つけられたときに生じやすい感情であり、抑え込みすぎると自分を責める形に変化することもある、という内容でした。
今回は、そこから少しつながるテーマとして、つらいことがあったときに「自分を責めてしまうこと」と「自分を思いやること」について考えてみます。
自分を責める声が聞こえるとき
失敗したとき、思うようにできなかったとき、あるいは誰かの期待に応えられなかったと感じたとき。私たちは、自分に対して厳しい言葉を向けてしまうことがあります。
- 「どうしてあんなことをしてしまったんだろう」
- 「もっとちゃんとできたはずなのに」
- 「やっぱり自分はダメだ」
こうした言葉が頭の中で何度も繰り返される時間は、とても苦しいものです。自分を責める声は、気持ちを軽くするどころか、不安や落ち込みをさらに深めてしまうことも少なくありません。
自分を責めるのは、弱いからではありません
自分を責めてしまうとき、私たちはさらに「こんなふうに自分を責めてしまう自分が嫌だ」と、その考え方自体を責めてしまうことがあります。
けれども、自分を責める、つまり自己批判するという心の働きは、ただ自分を苦しめるためだけに起きているわけではありません。その奥には、次のような「何かを守ろうとする働き」が隠れていることがあります。
- 同じ失敗を繰り返したくない
- 周囲から悪い評価を受けたくない
- これ以上傷つきたくない
自分を責める声は、こうした恐怖や不安を避けようとする、こころの必死な防衛反応でもあるのです。つまり、自分を責めてしまうこと自体も、こころが何とか自分を守ろうとして選んできた方法のひとつと言えます。
責め続けると、こころのエネルギーが削られていく
自己批判は、一見すると「自分を良くするため」に働いているように見えることがあります。
「もっと頑張らなければ」
「失敗してはいけない」
そうやって自分を厳しく取り締まることで、悪い結果を避けようとしているのかもしれません。
けれども、自分の悪いところばかりを取り上げて責め続けると、こころは安心感を失い、疲れていきます。
不安や落ち込みが強くなると、やる気や集中力が低下し、本来持っている力を発揮しにくくなります。その結果、「どうせ自分はできない」「挑戦しても意味がない」というあきらめが強まり、新しい一歩を踏み出すのが難しくなることもあります。
自分を良くしようとして始めたはずの自己批判が、結果として、こころのエネルギーを少しずつ削ってしまうという悪循環が起こりやすくなるのです。
自分への思いやりは、甘やかしではありません
この悪循環から抜け出すために役に立つのが、「自分への思いやり」、つまりセルフコンパッションという姿勢です。
自分を思いやると言うと、「それは自分を甘やかすことではないか」「努力をしなくなってしまうのではないか」と感じる人もいるかもしれません。
でも、自分への思いやりは、何でも許して怠けることとは違います。
自分への思いやりは、今の自分を責め続ける代わりに、今の状態を落ち着いて客観的に確認し、自分にとって本当に必要なことを考えやすくするための心の土台です。
失敗した自分を攻撃して終わるのではなく、
「何が起きたのだろう」
「自分は今、何を感じているのだろう」
「次に少しでも良くするためには、何ができるだろう」
と、一歩引いたところから温かく見つめ直していく作業です。
それは成長をあきらめることではなく、安心感を取り戻し、もう一度物事に向き合うための準備を整えることでもあります。
自己批判と、自分への思いやりの違い
どちらも「より良くなりたい」という気持ちと関係していますが、そのプロセスには少し違いがあります。
◆ 自己批判:恐怖を原動力にする方法
「悪く思われたくない」「失敗したくない」という恐れから、自分を厳しく評価し、足りないところばかりを責め立てます。一時的には頑張れることもありますが、不安や落ち込みが高まり、本来の力を発揮しにくくなることがあります。
◆ 自分への思いやり:健康や幸せを原動力にする方法
「少しでも良くなりたい」「今の自分を大事にしながら、できることに取り組みたい」という気持ちから、自分の状態を評価せずに受け止め、励ましや支えとともに次の行動を選んでいきます。自分を無理に動かそうとするのではなく、安心感を回復しながら、自身の成長につなげていくアプローチです。
自分を思いやるための3つのステップ
自分を責めたくなる出来事があったときは、すぐに前向きになろうとしなくても大丈夫です。まずは、次の3つのステップを試してみてください。
1. 感情を評価せずに確認する
まずは、今の自分の中にどんな感情があるのかを確認します。良い悪いを判断する前に、ただ気づいてみます。
「今、不安を感じているな」
「悔しい気持ちがあるんだな」
「ひどく落ち込んでいるんだな」
このように、今ある感情をそのまま静かに言葉にしてみます。
2. 自然なこととして受け止める
次に、その感情を持つことは自然なことかもしれない、と考えてみます。
うまくいかなかったら、落ち込むことがあります。大切にしていたことだからこそ、不安になることがあります。そう感じるのは、弱いからではなく、それだけ大切にしたいものがあったという証拠です。
「こんなことで落ち込むなんてダメだ」と責める代わりに、
「これだけ大切にしていたのだから、つらくなるのも自然なことだな」
と見てみる。それだけでも、自分への攻撃が少し和らぐことがあります。
3. その感情を持つ自分をいたわる
最後に、傷ついている自分に追い打ちをかけるのをやめ、その感情を持っている自分に、少しだけいたわりの言葉を向けてみます。
「つらかったね」
「よく頑張ってきたね」
「今は少し休んでもいいよ」
自分の味方になって声をかけ、身体の力を抜いてあげます。大切な友人が同じように苦しんでいたら、どんな言葉をかけるでしょうか。その言葉を、少しだけ自分自身にも向けてみる練習です。
問いかけを少しずつ変えてみる
こころの安心感が少しずつ回復してきたら、自分に向ける問いかけを変えてみることもできます。自己批判が強いときは、できなかった部分ばかりが目につくため、意識的に「現実を偏りなく見る」ための問いかけが役に立ちます。
自分を責める声が強くなったときは、次のように少し距離を置いて問いかけてみてください。
- 今、自分はどんな言葉で自分を責めているだろう?
- その声は、自分の何を心配し、避けようとしているのだろう?
- 本当は、何を大切にしたかったのだろう?
- 自分にできたことと、自分ではどうにもできなかったことは何だろう?
- 同じ状況の友人がいたら、どんな言葉をかけるだろう?
- 「また失敗した」の代わりに、「より良くするために、次はどうできるだろう?」と問いかけられるだろうか?
これは、自分を無理に褒めることではありません。できなかったことを責めるだけではなく、少しでもできたことや次に活かせる工夫にも目を向けることで、次の一歩を考えやすくするための作業です。
ひとりで整理するのが難しいときは
自分を責める声が強いときは、自分では何が本当なのか分からなくなってしまうことがあります。
自分が悪いと思い込んでしまう。
反省と自己否定の区別がつきにくくなる。
自分を思いやる言葉がまったく浮かばない。
そのようなときは、ひとりで整理するのが難しくなることもあります。
カウンセリングでは、自分を責める声を無理に消そうとするのではなく、その声がどのような場面で強くなるのか、何を守ろうとしているのかを一緒に整理していきます。
そして、自分を責めるエネルギーを、少しずつ自分を大切にする方向へ向けられるように考えていきます。自分の気持ちを責めるのではなく、少しずつ理解し、扱いやすくしていく時間です。
ひとりで整理するのが難しいときは、どうぞ抱え込まず、カウンセリングを頼ってください。