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「批判」と上手に付き合い、心の健康を保つ ― セルフ・コンパッション研究から見えてきたこと―

注意されたことを何度も思い出してしまう。
相手は忘れているような一言を、何日も引きずってしまう。
失敗すると、「自分はダメだ」「もっと頑張らなければならない」と自分を責め続けてしまう。
こうした苦しさの背景には、「批判に対する敏感さ」が関係していることがあります。
私は大学院で、セルフコンパッション(Self-Compassion:自分への思いやり)が、こうした苦しさにどのような影響を与えるのかについて研究を行っていました。
今回は、その研究から見えてきたことをご紹介したいと思います。

批判はなぜ苦しいのでしょうか

私たちは日常の中で、さまざまな批判や評価にさらされています。
批判の中には、自分の成長につながる大切なメッセージが含まれていることもあります。
しかし、批判を受けたときに心が大きく乱れ、
「自分には価値がない」「嫌われたに違いない」「失敗してはいけなかった」
と考え始めると、気持ちはさらに落ち込みやすくなります。
実際に私が行った研究では、批判によって心が大きく乱れる人ほど、抑うつ傾向も高まりやすいことが示されました。

1. 批判から心を守るための2つの視点

最初の研究では、批判による心の乱れを和らげるために、2つの視点が重要であることが示唆されました。

① 批判から受けるショックを和らげる

研究では、「すべての人に認められなければならない」「失敗してはいけない」
といった極端な考え方を持つ人ほど、批判を受けたときに強く心が乱れる傾向が見られました。
こうした極端な考え方を手放すことが、批判を受けたときの心の乱れを小さくすることに繋がります。

② 気分の落ち込みを食い止める

一方で、批判によって心が乱れてしまった後に重要なのが、自分自身への接し方です。
研究では、セルフコンパッションが高い人ほど、批判による落ち込みが抑えられることが示されました。
セルフコンパッションとは、「つらいときに、自分を厳しく責め続けるのではなく、自分自身にも思いやりを向けること」です。
これは、自分を甘やかしたり、問題から目を背けたりすることではありません。
批判の中に役立つ部分があれば受け取りながらも、必要以上に自分を傷つけないための姿勢です。

2. セルフコンパッションは身につけることができる

次に取り組んだのは、「実際にセルフ・コンパッションを高めるプログラムを実施したら、気分の落ち込みは改善するのか」という研究です。

この研究では、セルフコンパッションを高める課題に取り組んだグループと、取り組まなかったグループを比較しました。
その結果、課題に取り組んだグループでは、セルフ・コンパッションの向上と、抑うつの低下が見られました。

つまり、批判に敏感で落ち込みやすい人であっても、セルフコンパッションを高めることで、気分の落ち込みを和らげられる可能性が示されたのです。

3. 「知識として知る」ことと「継続する」ことの違い

さらに、「セルフ・コンパッションは、どのように身につくのか」についても検討しました。

研究では、セルフ・コンパッションの課題に高い頻度で取り組んだ群と、低い頻度で取り組んだ群に分けて、その効果を比較しました。

その結果、課題に継続的に取り組んだ群では、セルフコンパッションが高まり、その効果が維持されました。さらに、批判を受けたときの心の乱れも和らぐことが示されました。
興味深いことに、気分の落ち込みについては、課題に取り組む頻度にかかわらず、どちらの群でも低下が見られました。

ここからわかるのは、セルフコンパッションについて「知識として学ぶこと」だけでも、気分の落ち込みを和らげる可能性があるということです。
一方で、批判に対する過敏な反応を和らげたり、セルフ・コンパッションを高めて維持したりするためには、継続的な実践が重要である可能性も示されました。

つまり、セルフコンパッションは、知識として理解することにも意味があります。
そして、実際に練習しながら少しずつ身につけていくことにも意味があります。

研究から見えてきたこと

これらの研究を通して感じたのは、人は批判や失敗そのものによって傷つくだけでなく、その後に自分自身へ向ける言葉によって、さらに苦しくなることがあるということでした。
そして、自分に思いやりを向ける力は、生まれつき決まっているものではなく、学び、育てていくことができるものでもありました。

当カウンセリングでも、気持ちや考えを整理しながら、
自分を思いやる関わり方を一緒に見つけていくことを大切にしています。

もし、人からの評価や批判が気になって苦しくなっているのであれば、
「どうすれば自分を責めなくなるか」ではなく、「どうすれば自分に少し優しくなれるか」
という視点も役に立つかもしれません。

自分を責めてしまうのは、それだけあなたが日々を一生懸命に、真面目に生きている証拠でもあります。まずは今日まで頑張ってきたご自身に、「お疲れ様」と優しい言葉をかけてあげてくださいね。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

※本記事に関連する筆者の主な研究発表

矢島 新・富島 大樹・菅沼 憲治(2015)「批判による惑乱がイラショナル・ビリーフ及びセルフ・コンパッションに与える影響」日本人生哲学感情心理学会 第19回大会(文教大学)ポスター発表・筆頭発表者

矢島 新・富島 大樹・菅沼 憲治(2015)「セルフ・コンパッションが批判による惑乱と抑うつに及ぼす効果」日本心理臨床学会 第34回大会(神戸)ポスター発表・筆頭発表者

Arata Yajima, Hiroki Tomishima, Kenji Suganuma(2016)“Effects of psychoeducation and practicing self-compassion exercises on sensitivity to criticism and depression”31st International Congress of Psychology(Yokohama)Poster presentation / First author