- コラム
【こころのヒント】感情には、どんな役割がある?――不安・怒り・悲しみを「なくす」のではなく、理解するために
こんにちは。Arataカウンセリングルームの矢島です。
前回の「こころのヒント」では、ストレスと抑うつをテーマに、抑うつはこころが壊れそうになるのを防ぐための「非常ブレーキ」のような働きをすることがある、というお話をしました。
今回は、そこから少し視野を広げて、私たちが日々感じている「感情の役割」について考えてみます。
感情は、こころからのサインです
不安、怒り、悲しみ、さみしさ、罪悪感。
こうした感情は、できれば感じたくないものかもしれません。
「こんな気持ちにならなければいいのに」
「もっと前向きに考えなければ」
「感情に振り回される自分が嫌だ」
そんなふうに、自分を責めてしまうこともあります。
けれども、感情は私たちを困らせるためだけにあるものではありません。多くの感情には、自分にとって大切なことを知らせたり、自分を守ったりするための役割があります。
感情があること自体は、決して「弱さ」ではありません。こころや身体が、今の状態を知らせようとしてくれている大切なサインでもあるのです。
感情には「助けになる働き」があります
感情には、それぞれ助けになる働きがあります。一方で、感情が強くなりすぎたり、長く続きすぎたりすると、かえって苦しくなることもあります。
ここでは、私たちがつらく感じやすい感情について見ていきます。
◆ 怒り
* 助けになる働き:不満があることや、自分の大切なものが傷つけられていることを知らせてくれる感情です。「ここから先は入ってこないでほしい」「これは大切にしたい」「このままではよくない」という、自分の境界線や価値観に気づかせてくれることがあります。
* 強くなりすぎたとき:攻撃的な言葉や態度につながり、人との関係を壊してしまうことがあります。また、怒りを抑え込もうとしすぎると、自分を責めたり、自己否定が強くなったりすることもあります。
◆ 恐怖
* 助けになる働き:目の前の危険を察知し、身を守るために働く感情です。「危険から離れる」「助けを求める」「安全を確保する」といった、生存のための行動につながる大切な反応です。
* 強くなりすぎたとき:危険がない場面でも身動きが取れなくなったり、行動範囲が狭くなったりすることがあります。
◆ 不安
* 助けになる働き:未来の危機を予測し、準備を促してくれる感情です。「もし失敗したらどうしよう」という不安はつらいものですが、準備をしたり、確認したり、慎重に進めたりする力にもなります。
* 強くなりすぎたとき:完璧な安心を求めすぎて、かえって動けなくなることがあります。いくら確認しても安心できない、どうしてよいか分からず前に進めない、という状態になることもあります。
◆ 抑うつ
* 助けになる働き:前回お話しした「非常ブレーキ」のように、こころのエネルギーが少なくなっていることを知らせてくれる状態です。「これ以上無理を続けると危ない」「少し立ち止まる必要がある」というサインとして働くことがあります。
* 強くなりすぎたとき:普段できていたことができなくなったり、身体を動かすこともつらくなったりします。さらに、「動けない自分はダメだ」と責めてしまうと、より苦しさが深まる悪循環に入りやすくなります。
◆ 悲しみ
* 助けになる働き:大切なものを失ったときに生じる感情です。人との別れ、関係の変化、期待していたことが叶わなかったことなど、その喪失を受けとめるために必要な時間をつくってくれます。休むことや、誰かに支えてもらうことにもつながります。
* 強くなりすぎたとき:「自分が弱くなってしまった」と感じたり、人とのつながりから離れて孤立しやすくなったりすることがあります。
◆ さみしさ
* 助けになる働き:人との温かいつながりや安心を求めていることに気づかせてくれる感情です。「本当は誰かに分かってほしい」「安心できる関係がほしい」という、自分の中の大切なニーズを知らせてくれることがあります。
* 強くなりすぎたとき:孤独感を埋めようとして、自分にとってあまりよくない行動パターンに入りやすくなることもあります。
◆ 罪悪感
* 助けになる働き:自分の言動が、自分の大切にしている価値観やルールから外れたときに生じることがあります。「相手を傷つけてしまったかもしれない」「関係を修復したい」といった、気づきや関係修復の行動につながることがあります。
* 強くなりすぎたとき:本来自分が背負う必要のない責任まで引き受けてしまったり、自分を責め続けてしまったりすることがあります。
感情は「命令」ではなく「情報」
感情は、自分を守るための大切なサインです。ただし、「感情のままに行動しなければならない」というわけではありません。
* 不安を感じたから、必ず避けなければならない。
* 怒りを感じたから、強い言葉をぶつけなければならない。
* 悲しいから、何もできないままでいるしかない。
そう考えると、感情に飲み込まれやすくなります。感情は「命令」ではなく、今の自分を理解するための「情報」として受け取ることができます。
「不安だから、絶対にやめた方がいい」ではなく、
「今、不安を感じている。何に備えようとしているのだろう?」 と見てみる。
「怒っている自分はダメだ」 ではなく、
「怒りが出るほど、自分にとって大切なことがあったのかもしれない」と考えてみる。
感情を否定するのではなく、少し距離をとって見つめることで、感情に飲み込まれにくくなることがあります。
感情に気づくための小さな問いかけ
感情が強くてしんどいときは、すぐに答えを出そうとしなくて大丈夫です。まずは、次のように自分に問いかけてみてください。
* 「今、自分の中にどんな感情があるだろう?」
* 「その感情は、身体のどこにあらわれているだろう?」
* 「この感情は、何を知らせようとしているのだろう?」
* 「本当は、何を大切にしたかったのだろう?」
* 「今の自分に必要なのは、行動・休息・相談のどれだろう?」
感情に名前をつけるだけでも、少し落ち着いて見つめやすくなることがあります。
ひとりで整理するのが難しいときは
いろいろな感情が複雑に重なっているとき、ひとりで整理するのは簡単ではありません。
カウンセリングでは、感情を無理に消そうとするのではなく、その感情がどのような状況で起きているのか、何を知らせているのかを一緒に整理していきます。自分の気持ちを責めるのではなく、少しずつ理解し、扱いやすくしていく時間です。
感情に振り回されているように感じるときも、それはあなたが弱いからではありません。こころが、何かを知らせようとしているのかもしれません。ひとりで整理するのが難しいときは、どうぞ抱え込まず、カウンセリングを頼ってください。